美味いもん 相馬本家

ふるさと相馬ブランド化推進協議会が自信をもっておすすめする「相馬生まれの美味いもん」を産地直送でお届けするお店です

トップ > ブログ > 【サンエイ海苔】チャレンジスピリッツを持ち続ける海苔業界のパイオニア

【サンエイ海苔】チャレンジスピリッツを持ち続ける海苔業界のパイオニア

2015.03.06 カテゴリサンエイ海苔,ブログ,事業者

昭和22年に「たちや海苔店」として産声を上げ、昭和48年に現在の社名となった株式会社サンエイ海苔。チャレンジスピリッツと遊び心を持ち、徹底した品質管理にこだわる、市内の大手水産加工会社です。創業から70年近い歴史を紡ぎ、現在、約100人の従業員とともに前に進み続ける企業の成長の過程とは? そして震災の影響や現在の取組みとは? 本社営業所所長の阿部純也さんと社長室長で現社長のご長男の立谷甲一さんにお話をうかがいました。

 

福島県相馬市にあるサンエイ海苔の阿部純也さんと立谷甲一さん。

・阿部純也さん(左)と立谷甲一さん(右)

 

韓国のりの製造販売を日本で初めて行った企業

阿部さん:サンエイ海苔は、もともとは3人でスタートした会社なんです。サンエイという社名は、3人で栄えていこうという想いで付けられたといいます。当時は行商なんかもしていたといいますね。現在の主力商品は韓国のり。1996年に始まった事業なのですが、実は本格的に韓国のりを製造したのは我々の会社が日本で初なんです。今は違いますが、当時は市場に出回る韓国のりの約80%が我々の商品だったんです。

 

―そもそも、韓国のりを販売しはじめるきっかけは何だったのでしょうか?

 

立谷さん:当時、福島空港の開港記念に社長が韓国に行ったのですが、やはり海苔屋ですので向こうの海苔が気になったのでしょう。そこで韓国のりを購入して来たのです。私も食べたのですが、それが美味しくて。

 

阿部さん:スナック的な感覚でしょうかね。たとえばポテチのような。塩分もちょうどいいし、油もついてますし。よく分からないけど食べやすいというか。とはいえ、抵抗もあったと思います。韓国のりって穴が結構開いてますよね。日本の海苔からすると、穴のある海苔は不良品という扱いなんです。

 

―なるほど。

 

阿部さん:あとは油ですよね。海苔に油を塗るという文化がないので、我々日本人には抵抗があると思います。どうしても東北ですと焼き海苔文化ですから、そのままおにぎりに巻いたりとか、お醤油をつけてご飯を巻いて食べたり。それがいきなりおつまみで、それもごま油と塩が付いている。そういう食文化はなかったと思うんですよね。でもその中で閃いて。うちの海苔ソムリエが(笑)。

 

一同:(笑)

 

立谷さん:無心で食べていました、あの頃は(笑)。もう何も考えずに……。

 

―それで取扱いがスタートしたんですか?

 

立谷さん:直接的な判断のきっかけになったかどうかは分かりませんが(笑)。

 

阿部さん:まあそのような事があり(笑)、社長が❝いける❞と判断し、韓国のりの製造販売がはじまったんですね。

 

株式会社サンエイ海苔の本社営業所所長の阿部純也さんと社長室長で現社長のご長男の立谷甲一さん。

新しい食文化を広める苦労

―販売をスタートした当初、消費者の反応とはどうでしたか?

 

阿部さん:封を開けてみたら油が付いていたり、なんでもない海苔だと思って食べてみたらしょっぱかったり。その辺が慣れていないじゃないですか。穴も当然そう(受け入れがたい)でしょうし。製造面でも、油を使う商品ですので酸化の関係で結構色々とあったみたいで。やっぱりすごく試行錯誤をしましたし、非常に苦労したのが原初ですね。今ですと日韓ワールドカップですとか、韓流ブームなどがあって、向こうに行くことも多くなってきましたが、それまでは恐らく皆さんほとんどが知らないような状況でしたし。

 

―受け入れられるようになるまで、様々な苦労があったかと思います。どのような取り組みを行っていたか、教えていただけますか?

 

阿部さん:営業部隊の話になりますが、まずはどういうものなのかを知ってもらうという点。中身が見えないものをどうぞと言われても、あまり買いませんよね。ですから、大手スーパー様の軒先で、実演をしていました。海苔を焼いて、それに油を塗って、塩を振って。そういう認知の拡大はちょっとずつ進めてきました。あとは、FOODEX(*)という幕張メッセで開催される食の国際展示会があるのですが、そこで海外や日本のバイヤーさん達と接点を持ったり。そういう認知を広めていくという動きには非常に力を入れていました。
*アジア最大級の食品・飲料専門展示会

 

株式会社サンエイ海苔の本社営業所所長の阿部純也さんと社長室長で現社長のご長男の立谷甲一さん。

 

―製造方面ではいかがでしょうか?

 

阿部さん:やはりノウハウでしょうか。そこがまだまだ(足りていなかった)。日本とは製造方法だとか、海苔の種類が全く違ってくるので。それに向こう(韓国)の機械と同じようなものを導入したとしても、トラブルの内容が分からなかったり。技術的な部分を確立するのに非常に時間がかかりました。

 

―日本人向けにアレンジもされているのでしょうか?

 

阿部さん:ええ。私たちが作っている韓国のりはごま油100%なんですよ。でも向こうの韓国のりっていうのは、コーン油ですとか植物系の油がベースで。ごま油は香味付けといった程度でちょっとしか使ってないんですね。だから、味が全く違ってきます。また、輸入商品は油も塩分も多いんですね。お客様からもそういう声を多くいただいてましたから、油も塩分も抑えて、日本人向けに味付けを調整しました。お子さまから年配の方まで食べられるような味付けというものが、なかなか最初はうまくいかなく、苦労したというのが実際のところです。やっぱりその国々で違いますからね。日本ですら関西風と関東風で違いますし。そこが中々難しいですよね。

 

モンドセレクションで銀賞を受賞したサンエイ海苔の韓国のり。

・「韓国海苔プレミアム 6P」は2011年のモンドセレクションで銀賞を受賞

 

震災後、浜の食文化を残すために始まった新事業

―現在、海苔以外で力を入れているものはありますか?

 

立谷さん:シラス干と小女子です。福島県の漁業は試験操業(*)ですので、まだ大規模とまではいっていないのですが。震災後すぐに工場を建てはじめて、今年の四月から稼働し始めました。
*こちらの記事も参照ください:おんちゃまセットの内容更新と試験操業について

 

―震災後すぐに建てはじめたのですね。

 

立谷さん:はい。震災の数か月後くらいに。原釜の水揚げの多くがシラス、小女子の水揚げだったみたいなんですね。一方で当時は誰もやらないような状況だったので。誰もやらなかったらあそこの魚文化もなくなってしまうということで、社長が立ち上がって。福島なので風評被害があるというのはその時にもう分かっていたので、安全安心を極めた加工場を作りました。

 

―商品はどのように作られるのでしょうか?

 

立谷さん:加工場を作る際に、うちの社長が全国を渡り歩いて研究をして、いいところをすべて採用したラインを組みました。それで釜茹でから箱詰めまで全部自動で一本化しています。それと、衛生面にも気を付けています。原料を茹でて乾燥させた後は、すぐに冷却しないと菌が発生してしまうんですね。乾燥させた後はだいたい40度くらいで(機械から)出てくるので、その状態で箱詰めすると絶対中で菌が発生してしまう。あとは早く腐ってしまったり。それで、箱詰めする前に20メートルのトンネル式冷凍庫に通してマイナス35度で冷やします。その後は紫外線の殺菌も行います。

 

―かなり徹底しているんですね。

 

立谷さん:福島なので風評被害ってあるじゃないですか。だから、福島だからこそ安心できるものを作りたいという想いで、そのラインを組みました。箱詰めも自動です。

 

―文字通り、全自動。

 

立谷さん:そうですね。最後に一応計量のところで微調整するくらいで。あとは原料を流せばすべて作ってくれます。通常ですと釜茹でから出荷まで二日三日かかるのですが、このラインのおかけげで早ければ1時間くらいで出荷できてしまいます。

 

福島県相馬市にあるサンエイ海苔の「しらす」極み

・今年から始まったシラス干。サイズも複数用意されている(小女子も同様)

 

企業が受けた震災の影響と現在の考え

―先ほど風評被害の話が上がりましたが、どのような影響がありましたか?

 

阿部さん:水産加工は今年の3月に工場が完成して始まったので、対前年度の比較ができませんから明確には分かりません。だた、海苔の面に関しては当然(ありました)。例えば東北地区以外のお客様からは「もう東北のものは取らないよ」など、そのような反応は当初はありましたね。

 

―震災から3年以上経過しました。風評被害の程度はどの位変わりましたか?

 

阿部さん:商品を絶対購入しないという方も中には当然いらっしゃいます。でも、以前ほどの抵抗は少なくなってきていると思いますね。2014年の11月に、東京の青山のファーマーズマーケット(*)に直売って形で行ってきたんですが、そこで「福島ですよ」「相馬ですよ」というお話をさせていただきました。けれども「あ、相馬なんですね。じゃあ私たちも応援しますよ」と言ってあえて購入してくださる方も2、3名いらっしゃいましたから。別なお客様でおっしゃってくれたのは「福島県のもので出荷しているものは検査をすべてクリアしている。全然検査をしていないものではなく、検査をしたものを食べるのは一番安心だと思う」ということです。こういう声を聞くと、震災当初の考え方と今現在の考え方は、多少は変わってきているんだろうなと思いますね。

*東京・青山の国際連合大学前広場で毎週末開催されているファーマーズマーケット

 

―検査に関しておうかがいすると、福島で水揚げされた海産物は毎回放射性物質の検査を行っていますが、韓国のりに関してはどういう体制でしょうか。

 

阿部さん:我々が扱う韓国のりは2種類あります。韓国の原料を使って私たちの工場で製造するものと、韓国国内でパッケージングまでされたものです。後者に関していえば、あまり(放射性物質について)おっしゃる方はいらっしゃいません。ただ、福島で製造しているものに関していうと、お問合せは多かったです。「空間線量はどうなんだ」という声とか、「放射性物質の検査はされていますか」という声は、震災当初は毎日に近いくらいでした。韓国のりに限らず、焼き海苔も味付け海苔などもそうです。ですので、2011年の7月から、焼き海苔、味付け海苔、韓国のりを月に1回ピックアップして、外部機関に委託して検査をしてきました。ただ、今までずうっと続けていますが、検出限界値(*)を超えたことはござません。震災当初からそういう状況なのであれば、今後、出るという状況はなかなか考えにくいですし、証明書と言われた場合は、毎月1回の検査結果を提出して対応しています。
*放射性物質検査の機器が検出できる限界値

 

―他の生産者の方からも聞いたことがあるのですが、実際は検出限界値未満であったとしても、相馬だからということで結果を出してよって言われることもあるそうです。出したら出したで安心して食べてもらえるみたいなんですが。

 

阿部さん:そうですね。ただ、それも二分すると思います。検査結果を出した方が、明確に検査をしているから問題ないと捉える考え方もあるでしょうし、一方でそれを常に出し続けることで「ああ、まだそういうことをやらないとダメな状況なのかな」と捉える方もいますから。その辺は同じ相馬の企業でも、購入する側でも、意見は分かれてくるのかなと思いますね。検査結果を出せる準備、体制は整えていますけれども、果たして常にそれを添付した方がいいのか、その辺は課題なのかなと思いますね。

 

―検査を、または検査結果を表示する行為をいつ止めるのか、ということが。

 

阿部さん:そうです。「何故そこで止めたんですか」という質問に対して明確な理由がないといけませんから。原発は全て回収されてもう更地になりましたよと、もうどこにも放射性物質は飛散しませんよという状況になるまでそれを続けるのか。そうじゃなく、今の段階のどこかで切るのか。これは、メーカーが単独で決めれるような状況ではありませんから。政府の方で、もういいでしょうと、一斉に止めましょうという話がない限りは、明確な判断は迷うところではありますよね。

 

株式会社サンエイ海苔の本社営業所所長の阿部純也さん。

 

―震災の話ばかりで申し訳ないのですが、風評被害とは別に物理的な被害はありましたか?

 

阿部さん:海側に弊社の倉庫があったのですが、そこが津波で飲まれてしまいました。それは直接の影響になりますね。

 

―そこから立ち上がり、ある程度回復するまでは、どの位かかったのでしょうか。

 

阿部さん:そこはもう完全にありませんし、その代替の施設を建てるということはありません。どうしても、震災前の売上からはまず下がっているのは事実ですから。倉庫がなくなってしまった分の物流も少なくなっていますので。もとの100あったものが、今100あるという状況ではありません。ただ、水産の工場を建てたましたもので、その辺りでバランスを取っている状況ですね。

 

―震災前の売上を補てんしていくために、小女子やシラス干に力を入れていくと。

 

阿部さん:そうですね。もう海苔単独で売上を右肩上がりに持っていくというのは正直厳しいのが現状。私たちの会社だけではなく(福島県の)海苔業界としてもうまく行かない現状があるんですよね。ただ、小女子やシラス干は、売り上げの補てんという意味だけではなく、立谷も話した通り、相馬の漁師さんとか、福島の港っていう部分の復興の象徴になるのかなと考えています。私たちの水産が伸びていくということは、相馬の復興、浜通りの復興、福島の復興って形に連動すると思うんですよね。

 

チャレンジスピリッツの象徴・海苔の焼酎

福島県相馬市にあるサンエイ海苔が開発した青のり焼酎と焼き海苔焼酎

 

―話はまったく変わってしまうのですが、青のりと焼き海苔の焼酎。あれはどういうきっかけでできたのでしょうか? 非常に気になっていて(笑)。

 

阿部さん:相馬のブランド酒に「夢そうま(*)」というお酒があります。人気酒造という酒蔵が作っているのですが、うちの社長が商工会議所の副会頭もやっていた時に、夢そうま関係で人気酒造さんと交流がありまして。社長もチャレンジャーですから(笑)、いろんな方向に進んでいきたいと。そういうこともあって誕生しました。なかなか海苔でお酒っていうのはイメージ湧きませんよね?

*相馬市八幡地区で栽培された酒米・夢の香と相馬の地で湧き出た・天明水を使用した相馬のブランド酒。福島県二本松市の人気酒造が醸造している

 

―まったく(笑)。

 

阿部さん:ちょっと変わり種のもので、新たな挑戦というもので進めたのが一番最初ですね。開発したのは震災前ですから、相馬の松川浦の名産であるヒトエグサを使った焼酎を、と。それと焼き海苔の焼酎です。地元のアピールも当然できるでしょうし。海苔業界の底上げというのもできますし。モンドセレクションに申請を出したりもしたんですよ(*)。
*青のり焼酎はモンドセレクションで金賞受賞

 

―「面白そうだから」というのもあったのでしょうか(笑)。

 

阿部さん:そうですね(笑)。止まっているよりは前に進んで、どういうものがあるのかなと。そういう動きの一環だと思いますね。もともと韓国のりは韓国のりで、通常ほかの海苔屋さんでやらないところに突き進んだ経緯もありますから。海苔の焼酎に関しては、お酒好きと、チャレンジスピリッツが生んだというところでいいでしょうか(笑)?

 

立谷さん:そうですね(笑)。

 

―当時、周囲の反応はどうでしたか? 面白い!という声もあったのでは。

 

阿部さん:まあ、どこにもないものですから。その辺の姿勢はチャレンジャーだねと(笑)。

 

―なるほど(笑)。ありがとうございました。最後に、この記事を読んでくださる方々へ向けてメッセージをお願いいたします。

 

立谷さん:やはり、相馬の水産業界はこのような現状ですし、さらに自分たちは食品を扱う企業です。ですので、安心安全というのは大前提だと思っています。加工より工場の掃除にかける時間の方が多く、衛生管理に関しては日本で一番という意気込みで業務に取り組んでいますので、安心して食べていただければと思います。

 

阿部さん:立谷が言いました通りですが、このような考えを持ちながら相馬で頑張る企業があるということを、多くの方々に知っていただければ有難いです。
 
 

サンエイ海苔 直売所の様子

相馬市中村にある水産加工会社「サンエイ海苔」の直売所。韓国のりを日本に広めたパイオニアです。震災後は浜の食文化を残すべく、しらすや小女子の加工にもチャレンジしはじめました。詳しくはインタビュー記事をご覧ください。 https://www.soma-brand.jp/2015/03/06/saneinori/ 【サンエイ海苔】 福島県相馬市沖の内1丁目15-8 #theta360 – Spherical Image – RICOH THETA


 
 

サンエイ海苔の商品はこちら!